expand_less

 2025/10/24 06:16

Academy Program

【インタビュー公開】古屋晋一×高坂はる香さん(前編)

TOP

ー

NEWS

ー

NEWS DETAIL

5年間にわたり、次世代のピアニストを育ててきたアカデミーが一区切りを迎えました。
身体教育と芸術教育を融合させたこのプログラムは、単なる技術指導を超え、子どもたちの「感じる力」「考える力」「表現する力」を育ててきました。
その歩みを支えた、古屋晋一に、この5年間の成果と、次なる展望について、音楽ライターである高坂はる香さんがインタビューしてくださりました。

—5年間にわたるアカデミーを振り返って、いかがですか? 

ピアノを弾く上での身体教育はこれまでにもやってきましたが、子ども向けに行うのは初めてのことでした。とはいえ、むしろ身体教育は子ども向けのほうが大事だという信念で始めたことでもあります。その場合、やはり芸術面の教育もあわせて行うべきだということで、ディーナ・ヨッフェ先生をはじめアシスタント講師たちと連携して作っていきました。

修了コンサートのカーテンコールにて

ただそれが子供たちにどう受け入れられるのかはまったくわかりませんでしたから、初めは手探り状態です。結局は最後までやり方を変えることなく継続して、大きな手応えがありました。

……振り返ってみると、躊躇せずに最初から100%ぐらいでやったらよかったと思うくらい、うまくはまっていましたね!

 

—大人は合う合わないが自分である程度判断できますけれど、子供の場合ははそうはいかないからより手探りになりそうですね。

そうですね、大人は問題意識があって来ることが多いですが、子供は、スタートはなにもないの状態でくることが多いというのもあります。そんななか、私たちのやり方の中核にあったのは、目指すところと問題点はピアニストの先生方が示してくださるので、その間の橋渡しをこちらで引き取って解決していくという連携方法です。

例えばアシスタント講師が生徒の演奏を聴いて、あるレパートリーで内声の音があまり聞こえない、レガートがつながっていないと指摘したとき、ではそれをどのようにできるようにしてあげるかという段階で、僕にパスをくれます。すると、Whatは分かった状態で、Howの部分を埋めていくことができます。

一番ありがたかったのは、先生方が僕を信頼してくださっていたこと。生徒たちも、最初は僕のことを「誰やねん!」と思っていたかもしれませんが、この人の言うことをやると弾けるようになると感じることの積み重ねが、肝になっていったと思います。

ある意味、社会実験のようなところがありました。もちろん大人で実績が出ていたので、子供でもうまくいくだろうという見込みはありましたけれど。

 

—逆に、想定外の現象が起きてしまったことはありますか?

“きっかけがわからないけれど急にうまくなる現象が、子供たちには起きる”というのが想定外でしたね。

例えば、弾く姿勢に問題があって、毎回指摘しても直らないんだけれど、1年のプログラムが終わる11ヶ月目最後のレッスンで、突然姿勢が良くなった子がいました。本人に聞くと、「ようやく自分の中でハマった」とのこと。先生が同じことを言い続けることで、スイッチが入ると、ポポンっと変わる瞬間があるんだろうと思いました。

僕は科学者なので、これをしたらこういう効果が出るはず、という考え方をしがちなのですが、効果が出るまでに予想外の時間がかかるという現実が、とても面白かったですね。

 

—普通なら、“急にできるようになったね!”で終わるところが、このアカデミーでは記録されて次に生かされていくことにまた意義がありますね。

そうですね、僕らのチームには、エンジニアやピアニストなどいろいろなバックグラウンドの人がいますが、「改善される背景に何があるのか知りたい」という共通の意識があります。それを体系化していくと、以前の事例を別のケースで使えることが出てきたり、逆に効果がないということも出てきたりするわけです。

そんな話ばかり5年間し続けてくると、必勝パターンと、それ以外の個別のパターンがリストアップされてきます。おかげで最後のほうはどんな子が来ても対応できるようになってきていました。

 

—5年のアカデミーが終了して、次にどんなプランがあるのでしょうか。

 この5年間は、教えることに全力を投じてきましたが、そのなかで、僕が何をしゃべったかがなにもかも全部記録されています。ここからは、こういうアドバイスをしたらこういう反応、効果があったということをまとめていく重要な作業をすることになります。これには時間が必要です。

それによって、身体教育の教科書のようなものを作ることで、より多くの方を巻き込みながら、僕以外の人でも教えられる仕組みを作りたいというのが、今考えていることです。

 

—個々の話も多く、教科書としてパターン化するのが難しそうな気もしますが、人間の体のつくりはみんな一緒だから、おおむねのところは共通して使えるのでしょうか?

 別の子に同じ教え方ができないというのはその通りなのですが、僕は科学者だけに、しつこく共通原理を探そうとしてきました。

すると、よくある問題10個集が見つかってきたんです。例えば、よくある頭を振りながら弾いてしまう子については、「それがどういう時に起きて、結果このように音が悪くなる。そこにはこうアプローチしたら直る。ただしその解決法は一個ではなくたくさんある。そのうちのトップ3を試すと、70%ぐらいの問題が解決する」というように。

子どもたちのピアニストとしての基盤を作るときに意識すべきは、最後の10%のところではなく、最初の7、8割を作ってあげるところです。だからこれがうまく活用できるのだと思います。

 

—その教育方法は、どうやって世の中に広げていくのでしょうか?

 今まで毎年10名しか参加してもらえませんでしたから、まずは生徒の数を増やすことが必要ですね。普段のピアノのレッスンは継続しながら、体の使い方だけここで学んでもらうスタイルができたら良いでしょう。

あとはやはり、指導者の方に広く知ってもらう機会を作っていきたいと思います。大人になってから学び直しをしたいという意識のある先生方も多いと思うので、そんな方達のための学校のような場で指導法の一つとして学んでいただくことも考えていきたいですね。

 

—アカデミーでは、芸術面の教育としてどんなことをされていたのでしょうか?

子供の場合、楽譜が読めているといっても音をたどっているだけで、その奥にあるものまで読み込めてないことも多いので、ピアニストの先生方はそこの部分——楽譜を読んでどう想像を膨らませるかをサポートしてくださいました。

あとは、例えばベートーヴェンのピアノ・ソナタを弾くなら室内楽やシンフォニーのイメージが必要ですが、あるとき、多くの子供たちにその感覚がないことに気づきました。そこで昨年の修了コンサートで室内楽を取り入れたところ、この経験がすごく生きて、生徒たちの想像する音が増え、より多くの選択肢から音を選ぶようになったことがわかりました。

当初は予定していなかった室内楽ですが、実現してとても良かったです。

後編へと続きます!

この記事をシェアする

2025/10/24 06:16

Academy Program

© 1993-2024 Sony Computer Science Laboratories, Inc.
© 2021-2024 NeuroPiano Inst.

【インタビュー公開】古屋晋一×高坂はる香さん(前編)

Contact NeuroPiano

Contact us for more inquires about the Music Excellence Project.

CONTACT US

keyboard_arrow_right

© 1993-2024 Sony Computer Science Laboratories, Inc.
© 2021-2024 NeuroPiano Inst.

PEACNEWS